2024年11月10日日曜日

「CHANGE OR DIE」

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だからユニクロは「大企業病」にならなかった…柳井正が2011年元旦に流した全社員メール"過激な言葉"の背景

ニースのアイコニック・センターにあるユニクロのロゴ(=2024年5月27日、フランス) - Beata Zawrzel/NurPhoto/共同通信イメージズ

ユニクロが大企業病にならず、成長を続けられるのはなぜか。ファーストリテイリング元執行役員の宇佐美潤祐さんは「柳井さんは毎年元旦に、全社員宛に1年間の方針をメールで流す。2011年に伝えた言葉はユニクロが社員に求めるものを象徴していた」という――。

※本稿は、宇佐美潤祐『ユニクロの仕組み化』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。


 ■2011年元旦に全社員に送られたメッセージ

 リーダーの仕事は「仕組み化」です。新しい仕組みをつくったり、仕組みをアップデートしたりすることこそがリーダーの仕事で、それ以外は部下の教育を除けば、言葉は悪いですが雑務といっても言いすぎではありません。 

幹部クラスでしたら「どうすれば組織全体を変える仕組みをつくれるか」について考える必要がありますし、小規模のチームでも「チームにどういう仕組みがあればチームを変えられるか」を考えなければいけません。

 ユニクロ(ファーストリテイリング)ではリーダーだけでなく働いている人ひとりひとりに「変革」を求めます。それを最も象徴している柳井正さんの言葉があります。

 「CHANGE OR DIE」

 柳井さんは毎年元旦に、全社員宛てに一年間の方針をメールで流します。
「CHANGE OR DIE」は、2011年の方針です。「元旦からとても過激な言葉だな……」と思われるかもしれませんが、この言葉は柳井さんなりの社員へのカンフル剤だったのでしょう。

 当時の業績は、08年秋に世界を襲ったリーマンショックから回復傾向にはありましたが、芳しくありませんでした。業績は経営陣の責任ですが、柳井さんとしては「働いている人全員に責任がある」という事実を徹底的に認識してほしいという思いがあったそうです。

 ■ユニクロが大企業病にかかってしまう懸念

 全員が失敗を認識し、自らの仕事を抜本的に変革し、新しい現実に対応していかなければ生き残れない。ひとりひとりが変わらないと世界と戦っていけない。そんな危機感から発せられた言葉なのです。

 すでにこのころ、ユニクロは海外にも進出する大企業になっていました。地方発の中小企業として始まり、グローバル化とは縁遠いと思われていた小売りという業態でしたが、SPA(製造小売業)で大成功を収め、グローバルに事業を展開していました。

 当時、店舗ごとの売り上げでも日本の店舗がすでに一番ではありませんでした。1位がパリ、2位がニューヨーク、3位が台湾、4位が銀座……と続いて、上位10位のうち、海外店舗が半分を占めていました。

 それだけに、柳井さんの中にはユニクロが大企業病にかかってしまう懸念もあったでしょう。「CHANGE OR DIE」はそうした文脈から発せられたともいえます。私は大卒後、大手損保会社に勤めた後、米国留学を経て戦略コンサルティング業界で約20年働いていました。それから、ユニクロの経営者・人材育成機関(FRMIC: Fast Retailing Management and Innovation Center)の担当執行役員として入社しました。


■1989年末の時価総額ランキングではトップ5が日本企業 

  コンサルタントとして多くの企業を見てきましたが、成長しない企業は不活性化していきます。どんどん弱っていきます。 

  そうした状況を避けるには成長し続けるしかありません。そのためにはこれまでの自社のあり方を自己否定しても、変わり続けなければいけません。ただ、これが簡単ではありません。多くの企業は過去に成功したビジネスモデルに縛られ、成功が大きければ大きいほど今までのやり方を変えるのは難しくなります。過去の栄光を捨てられないのですが、捨てなければ衰退します。

  まさに企業経営は柳井さんの言葉通り「CHANGE OR DIE」なのです。どれほど変化するのが難しいかを物語るのが、企業の時価総額ランキングです。バブル景気が絶頂を迎えていた1989年(平成元年)の年末の段階では世界のトップ5を日本企業が独占していました(1位から日本電信電話〈NTT〉、日本興業銀行〈現・みずほフィナンシャルグループ〉、住友銀行〈現・三井住友フィナンシャルグループ〉、富士銀行〈現・みずほフィナンシャルグループ〉、第一勧業銀行〈同〉の順です)。 

  では、2024年7月現在はどうでしょうか。トップ5に1社も日本企業がいないどころか、トップ10にもいません。30位台まで下るとトヨタ自動車を何とか確認できる状況です。

 ■成功体験が足かせとなり、次の波をつかみ損ねる 

  これは「イノベーターのジレンマ」と呼ばれる現象で、「成功の復讐」あるいは「経路依存性」ともいわれます。特定の技術や事業モデルでの成功体験が足かせとなり、次の波をつかみ損ねるという、勝ち組によくある落とし穴です。

  成功を収めたことで、従来の延長線上で何とかしようとすればするほど打つ手は狭まり、変革は起こせず、停滞します。リスクを恐れて、新しい大きな目標を打ち立てず、「前年比○%増目標」のような安全運転をしていれば達成できる目標しか掲げなくなります。

  当然、世の中があっと驚くようなサービスや製品は生まれにくくなり、少しずつ衰退していきます。日本企業の凋落ばかり指摘しましたが、世界的な大企業もこのワナにはまっています。

  たとえば「写真フィルムの巨人」といわれた米国のイーストマン・コダックは、デジタル化に乗り遅れて法的整理に追い込まれました。また、かつて世界最大の自動車メーカーだったGM(ゼネラルモーターズ)も燃費の悪い大型車が生む利益に頼り、小型車シフトや環境技術など市場の変化の波に乗り遅れて、破産法を申請しています。

■企業の成長と衰退は常に紙一重 

  アナログ携帯電話で大成功したために、デジタル化の取り組みが遅れたモトローラも、典型的な「成功の復讐」にはまってしまった企業のひとつでしょう。一方でGE(ゼネラルエレクトリック)は、祖業はエジソンが発明した白熱電球ですが、現在、GEの売上高に占める白熱電球の比率はほとんどありません。中興の祖であるジャック・ウェルチ氏による経営改革で、事業ポートフォリオの見直しに成功しました。金融業と製造業の複合経営は世界中の製造業のお手本になりました。

  ただ、GEは今、その複合経営が行き詰まり、電力タービンや医療機器などの製造業に専念しています。企業の成長と衰退は、常に紙一重なのです。こうした「成功の復讐」のワナを、柳井さんは当然熟知しています。ユニクロが目指しているのは「イノベーターのジレンマ」とは無縁の企業です。自己否定を恐れずに変わり続ける企業です。

  過去に成功したのはそのときの製品やサービス、戦略が環境に適合していたからに過ぎません。環境は常に変わるわけですから、企業も常に変革を起こし続けなければいけないのです。

 ■社員の変革を実現できるのは唯一「仕組み」

  だから、変わり続ける。それも、経営陣だけが変革を叫んでも限界があります。カリスマ経営者が変革を起こせたとしても、それでは持続性がありません。その経営者が去ったらおしまいです。

  だから、ひとりひとりが変わり続けなければいけないのです。誰かに依存せずに、みんなが経営者の意識を持って仕事に臨まなければいけません。組織の成長は、そのひとりひとりの「変革」の力の総和にかかっているわけです。

  もちろん、「変革を起こせ」「ひとりひとりが経営者の意識を持て」とただ叫んだところで、あまり実効力は上がらないでしょう。そこで、実践させるのに必要になるのが仕組みです。

  まず、目標を高く設定します。たとえば、柳井さんは「グローバルでナンバーワンのアパレルブランドになる」とよく宣言しています。今はスペインのインディテックス(ZARA)、スウェーデンのH&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)に続いて3位です。単純に売り上げだけで比較するとインディテックスはユニクロの約2倍で5兆円以上の売り上げがあります。正直、少し遠いですね。まさに大きな変革を起こさないと届かない距離感といえます。

■目標達成が見えてきたら、さらに高い目標を掲げる

 ここで有効になるのが「3倍の法則」です。これは本書の第3章で詳しくお伝えしますが、ユニクロはイノベーションをドライブするために一定の目標達成が見えてきた段階で、現状の3倍程度の高い目標を掲げ、その実現のために10年がかりでのイノベーションをテコにした変革を果たしてきています。

 過去の成功体験のしがらみにとらわれることなく、さらなる成長を目指すのです。2023年度の売上高は約2.7兆円ですが、3兆円が視野に入ってきたところで、柳井さんは2023年に第4の創業・10兆円構想をぶち上げました。壮大な目標に映るかもしれませんが、この壮大な目標が変革には効果的です。

 人間は現状維持で満足しがちです。企業で働いていて目標を立てるとしても、現状を少し改善した程度になりがちです。前年度の取り組みを効率的に回して、前年度比で数%でも伸ばせば評価される企業が大半です。ただ、それでは持続的な成長にはつながりません。

 たとえば、「3兆円を3.5兆円にしなさい」と言われたら、今の延長線上で達成可能に思う人が大半ではないでしょうか。

 一方で、「3兆円を10兆円にしなさい」となると、根本的に考え方を変えないと絶対に実現が難しいと考えるはずです。ちょっとした改善策では不可能だと誰もが感じます。

■常識外れの高い目標が変革を生み出す

 このマインドチェンジこそが狙いです。目標が壮大であれば、現状に満足することなく、試行錯誤する方向に意識が傾きます。自ずと、大胆なアクションを計画して試み、変革を起こす可能性も高まるというわけです。

 これは米国のグーグルの「10X(テンエックス)思考」に似ています。これは社員にゼロベースでの思考を促すために、現状の数値に「0」を1つ足した目標(=10倍)を実現するにはどうやるかを考えさせる仕組みです。もちろん10倍の数値がそのまま目標となるわけではありませんが、「経路依存性」ともいわれる過去の成功体験に縛られないアウト・オブ・ボックスの発想を行うためには常識では、考えられない高い目標を掲げることが有効です。

 人間は環境に左右される生き物です。そうせざるを得ない状況に身を置けば、意識は変わります。高い目標を掲げることでそうした環境を整え、ひとりひとりが変革を起こす仕組みをつくっているのです。その仕組みが、グループ全体を底上げして、ユニクロの急速かつ持続的な成長を支えています。



---------- 宇佐美 潤祐(うさみ・じゅんすけ) UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO 東京大学経済学部卒業。ハーバード大学ケネディ大学院修了(政策学修士)。アーサー・D・リトル経営大学院修了(経営学修士、首席)。 1985年に東京海上に入社。米国留学を経て、戦略コンサルティング業界へ。ボストン コンサルティング グループ(BCG)ではパートナー、組織プラクティスの日本の責任者を務め、Organization Practice Awardを受賞。その後、シグマクシスを経て、2012年から2016年の間、ファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員を務めた。その後アクセンチュアの人材組織変革プラクティスのジャパン全体の責任者を経て、リード・ザ・ジブンを起点にした人材組織変革を手掛けるUNLOCK POTENTIAL(「人と組織の可能性を解き放つ」の意味)を設立。デジタルトランスフォーメーションにともなう人材組織変革、経営者人材育成、経営チーム変革、組織風土変革、新規事業創出等のコンサルティングおよび研修・講演を行なっている。 ----------

UNLOCK POTENTIAL代表取締役CEO 宇佐美 潤祐

https://news.yahoo.co.jp/articles/fa76d0b265ce30532b6b9e904814e3185e55bb49?page=1

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